イラン南西部で遊牧生活を営んでいたアフシャール族によると思われる、チャンテと呼ばれる収納袋の完全な形が保たれた物です。前所有者様によると60年位前の物かな？との事でした。袋の本体のみで縦約43㎝、横約51㎝です。 特筆すべきは鮮やかながら嫌味のない色合い(特にターコイズブルーは見事です)と、装飾のフサが残されている事です。下部のフサには貝殻が付いている所にもご注目下さい。海から遠く離れた山岳地帯で生活する遊牧民女性にとって、貝殻にはどのような思いが託されていたのでしょうか… 表側の装飾面は絨毯、裏側はシンプルなキリム、底部で繋がっており側面を綺麗にかがって袋状にしています。表側上部はスマック織です。刺繍したようにも見えますが、縦糸に色糸を絡めるようにして模様を織り出す手法で、袋の口に強度を出すためです。 スマック織の部分には縦長のスリットが等間隔に並んでいます。裏布に縫い付けたループを表側の穴から出して、隣の穴から出した次のループは先のループにも通して、と袋の口を閉じる構造です。完全に上部を閉められますので、中綿を入れればクッションになります。 一枚の布に異なる織技法を用いると、境目でシワが寄ったり形が整わなくなる事があるそうですが、こちらは非常に綺麗に整っています。 バッグとしてはほとんど使用されなかったのか、パイルの摩耗は全くと言っていい程ありません。フカフカのパイルがみっちり詰まっています。裏側のキリムは羊毛そのままの色のため、どうしても汚れが目立ちます。その他、装飾のフサに傷みがある事を除けば完璧な状態です。 欧米に輸出される際、裏側は無価値な物として切り捨てられる事が多かったとの事ですし、完璧な形の袋は貴重です。コレクターアイテムとしても、形を生かして工夫して頂いてもよろしいかと思います。 購入時はうっすら汚れていましたのでウール用洗剤で洗濯しました。個人的な感覚ではありますが、現状は頬ずり出来るくらい綺麗です。我が家では鑑賞のみで実用しておりません。 オールド キリムから始まり、トライバル ラグ・部族系絨毯と言われる中近東の毛織物にはまり、欧州のディーラー様から譲り受けたものです。整理のための出品です。長い年月を経てきたなりの難がありますが、作成し使用してきた人々や歳月に思いを馳せつつ、現状のまま愛でて下さる方の購入をお待ちしております。